Preservation Facelift(プリザベーション・フェイスリフト)は、皮膚の下を必要以上に広く剥離せず、皮膚・皮下脂肪・SMASの連続性をできるだけ保ちながら、より深い層でたるみを動かすという考え方です。「どこも剥がさない手術」ではありません。浅い層への負担を抑えつつ、深い層でリフトアップを妨げる支持組織を適切に解放し、皮膚だけに頼らず複合組織として移動させることが要点です。
まず理解したい、顔の5層構造
フェイスリフトを理解するうえでは、顔の軟部組織を表面から次の5層に分けて考えると分かりやすくなります。
- 皮膚
- 皮下組織・皮下脂肪
- SMASと、それに連続する表在性の筋膜組織
- スペースと疎な結合組織の層
- 深筋膜・骨膜
皮膚、皮下脂肪、SMASは、それぞれ独立して存在しているわけではなく、細かな線維性組織を介して連続しています。一方、SMASより深い層には、組織が動きやすいスペースと、動きを制限する支持靱帯などが存在します。
Preservation Faceliftは、この表層の連続性をできるだけ保つことと、深層の動きを妨げる構造を必要な範囲で解放することを組み合わせた手術と捉えることができます。
何を「Preserve=温存」するのか
従来のフェイスリフトには、耳の前から皮膚の下を広く剥離し、皮膚とSMASを別々に扱う方法があります。皮膚と深部組織をそれぞれ調整できる一方、剥離した範囲には組織同士が離れた空間、いわゆるdead space(デッドスペース)が生じます。
Preservation Faceliftでは、耳周囲など必要な範囲の皮下剥離は行いますが、その範囲を抑え、より早い段階でSMASの深層へ入ります。そして必要な支持組織を解放し、皮膚・皮下脂肪・SMASをなるべく一体の複合組織として移動させます。
この設計によって温存しようとするものは、主に次の3点です。
- 皮膚と皮下組織の間にある細かな血管網
- 皮膚・皮下脂肪・SMASの解剖学的な連続性
- 剥離する必要のない深さの軟部組織
Deep Plane Faceliftとの関係
Preservation Faceliftは、Deep Plane Faceliftとまったく別の術式というより、Deep Planeの考え方を基盤に、浅い層の剥離をより限定する方向へ発展した手術設計として説明されることが多くなっています。
浅い層をあまり剥離しないだけでは、組織は十分に動きません。SMASの深層へ入り、リフトアップを妨げる支持靱帯や周囲組織を必要な範囲で解放して初めて、皮膚だけに強い力をかけずに頬やフェイスラインを移動できます。
Jaconoらが報告したExtended Deep Plane Faceliftでは、顔の外側で皮膚の下を剥離した後、外眼角から下顎角へ向かう線を目安にSMASの深層へ入ります。図の赤い範囲は、皮下剥離の範囲となります。つまり、皮膚とSMASが分断されてしまう部分です。このように、従来のExtended Deep Plane Faceliftでは、Deep Plane Faceliftではあるが、皮下剥離の範囲が依然として広いという矛盾点・問題点を抱えた手術でした。
この方法では、Deep Planeへ入る位置まで皮下剥離が必要です。Preservation Faceliftは、Deep Planeで支持組織を解放する考え方を保ちながら、その手前にある皮下剥離をどこまで減らせるかという視点から発展しました。
図で見る、従来のDeep PlaneとPreservationの違い
Roskiesらは、従来のDeep Plane Faceliftと、皮下剥離を限定したPreservationの設計を比較しています。
図の上段A・Bが従来のDeep Plane、下段C・DがPreservationです。手術開始時の設計だけでなく、組織を移動した後に残る剥離範囲にも違いがあります。特にBとDを比較すると、Preservationでは皮膚と深部組織が離れる面積、つまりデッドスペースが限定されていることが分かります。
Sadatiらの図では、上段が従来のExtended Deep Plane、下段がPreservation Faceliftです。PreservationではSMASの深層へ入る位置をより外側へ変更し、皮膚の下を剥離する範囲を限定しています。一方、緑色で示されたDeep Planeでは、頬やフェイスラインを動かすために必要な深層操作を行います。
これらの報告に共通するのは、単に手術範囲を小さくすることではありません。浅い層で組織を分ける範囲は抑えながら、深い層では必要な支持組織を解放するという、手術経路の組み立て方の違いです。
浅い層の剥離を抑える理由
皮下を広く剥離すると、皮膚と深部組織の間に大きなデッドスペースができます。また、皮膚側に残る細かな血管や結合組織に負担が加わるため、血腫、創傷治癒の遅れ、皮膚の血流障害、瘢痕による硬さや凹凸などに注意が必要です。
浅い層の剥離範囲を抑えることには、デッドスペースと表層組織への侵襲を小さくし、皮膚の血流や組織の連続性を保ちやすくするという理論的な利点があります。
ただし、剥離が少なければ必ず安全で、回復が早いと断定できるわけではありません。Preservation Faceliftは比較的新しい呼び方であり、術者によって具体的な手術内容も異なります。現在の報告には後ろ向き研究が多く、他の術式に対する長期的な優位性を判断するには、今後も研究の積み重ねが必要です。
「構造」と「肌質」を分けて考える
顔の若返り治療は、「Structure(構造)は手術、Texture(肌質)は機器治療」と役割を分けて考えると整理しやすくなります。
フェイスリフトが得意とするのは、下がった頬やSMAS、広頸筋などを移動し、顔の土台となる構造を整えることです。一方、細かなシワ、色調、毛穴、皮膚表面の質感といった変化は、フェイスリフトだけですべて改善できるものではありません。
また、浅い層を温存する設計では、皮下の線維性組織や皮膚そのものへ直接加える操作は限定されます。必要に応じてレーザー、光治療、高周波などを組み合わせ、構造と肌質を別々の方法で整えることも選択肢になります。
これはすべての患者さんに機器治療が必要という意味ではありません。皮膚の状態、希望する変化、ダウンタイム、過去の治療歴を踏まえて個別に判断します。
まとめ
Preservation Faceliftは、浅い層を必要以上に剥離せず、皮膚・皮下脂肪・SMASの連続性を保ちながら、深い層からたるみを動かすという考え方です。目指しているのは、操作を単に小さくすることではなく、必要な解放と移動を行いながら、手術による組織への負担をできるだけ抑えることです。
一方で、術式の呼び方や具体的な手術内容は術者によって異なり、すべての方に同じ方法が適しているわけではありません。名称だけで判断せず、自分の顔では何を温存し、何を解放し、どこをどのように動かす計画なのかを確認することが大切です。