SSSHOICHI SASAKIPLASTIC SURGEON

Insight

現代のオーバーサージェリー

手術や施術の数だけでは語れない、現代のオーバーサージェリー。特定の部位・術式・機器に偏った治療が、なぜ顔全体のバランスを崩すのかを考えます。

オーバーサージェリーと聞くと、多くの方は「手術を何度も繰り返し、顔が不自然になってしまうこと」を思い浮かべると思います。しかし現在、私がより注意すべきだと感じているのは、必ずしも手術の回数が多いケースだけではありません。特定の部位、術式、注入治療、あるいは一つの機器だけで、性質の異なる悩みをすべて解決しようとすること。それによって、治療した一部分は変わっても、顔全体の調和が少しずつ失われていくこと。これもまた、現代のオーバーサージェリーだと考えています。

かつてのオーバーサージェリーは「量」の問題だった

従来、オーバーサージェリーは比較的分かりやすいものでした。より大きな変化を求めて手術を重ねる、組織を取りすぎる、強く引き上げすぎる、あるいは注入を繰り返す。その結果、本来の表情や顔立ちから離れ、誰が見ても「治療をやりすぎた」と感じる状態です。

もちろん、このようなオーバーサージェリーは現在もあります。しかし美容医療が細分化され、特定の部位や治療に特化した医師が増えた今、別の形の「やりすぎ」が生まれやすくなっています。

それは、施術数の多さよりも、診断と治療の視野が狭くなることから始まります。

現代のオーバーサージェリーは「診断の偏り」から始まる

ある術式を深く習得すること、特定の部位を専門的に扱うこと、機器の特性を熟知すること自体は、決して悪いことではありません。むしろ、安全性と治療精度を高めるうえで専門性は重要です。

問題は、得意な施術が、患者さんの顔を診る前から答えになってしまうことです。

たとえば、一つの機器を専門にしていれば、さまざまなたるみをその機器で治したくなるかもしれません。注入治療を得意としていれば、くぼみだけでなく、たるみや輪郭の問題まで「足すこと」で解決しようとするかもしれません。ある部位の手術を数多く行っていれば、本来は隣接する部位や顔全体に原因がある場合でも、その一箇所だけに手術を加えたくなるかもしれません。

しかし、患者さんの悩みと、術者が得意とする治療が、いつも一致するとは限りません。

現代のオーバーサージェリーが起こりやすい考え方
  1. 顔全体ではなく、相談された部位だけを診る
  2. 原因を考える前に、得意な施術を当てはめる
  3. 「足す」「減らす」「引き上げる」など、一方向の治療を繰り返す
  4. 隣接する部位、表情、横顔、将来の加齢変化を十分に評価しない

このような治療では、一つ一つの施術が技術的には正しく行われていても、その積み重ねによって顔全体のバランスが崩れることがあります。

一箇所だけで、すべてを解決しようとしない

顔は、それぞれの部位が独立して存在しているわけではありません。額と眉、眉と上まぶた、頬とほうれい線、口元と顎、フェイスラインと首は、互いの位置やボリューム、動きによって印象が決まります。

上まぶたが重く見える方に対して、上まぶたの皮膚だけを減らせばよいとは限りません。眉や額の位置が関係している場合、まぶただけを治療すると、目と眉の距離や表情のバランスが変わる可能性があります。

ほうれい線が気になる方に対しても、溝だけを埋め続けることが最適とは限りません。頬の位置、顔全体のボリューム、皮膚や支持組織の変化を考えずに注入を重ねれば、線は浅くなっても、中顔面が重く不自然に見えることがあります。海外で「オーバーフィルド・シンドローム」と呼ばれている状態も、この問題を象徴しています。

同じことは、たるみ治療や脂肪を減らす治療にも当てはまります。骨格、皮下脂肪、支持組織、皮膚のゆるみ、肌質という異なる問題を、一つの手術や機器だけで解決しようとすれば、治療の目的と実際に変えられるものの間にずれが生じます。

大切なのは、悩みが現れている場所と、その原因が存在する場所は、必ずしも同じではないということです。

フェイスリフトの例 ― 中顔面・こめかみ・前額は連動している

フェイスリフトは、顔のすべてが連動していることを分かりやすく示す例です。顔全体を引き上げ、中顔面が外側方向へ十分に上がっている一方で、こめかみのたるみが残っていると、余った組織が目尻周辺に集中することがあります。その結果、笑ったときに目尻が不自然に盛り上がって見えることがあります。そこで今度は、顔全体とのつながりを考えずにこめかみだけを強く引き上げると、眉の外側ばかりが過度に上がり、つり目のような印象につながる可能性があります。

私がフェイスリフトに、小切開こめかみリフトや内視鏡前額リフトを併用して提案することが多いのも、この連続性を考えているためです。中顔面を最大限に引き上げようとするならば、同時にたるんでいるこめかみや上顔面(前額)も含めて位置を整えなければ、顔全体として自然なバランスを保てないことがあります。

これは、手術をむやみに増やすという意味ではありません。一つの部位だけに最大限の変化を求め、連続している部位をそのままにすることを避けるためです。実際に併用が必要かどうかは一人ひとり異なりますが、フェイスリフトの治療計画では、中顔面、こめかみ、前額、眉、目元を一続きの構造として考える必要があります。

「その部位の成功」と「顔全体の成功」は同じではない

施術前後の写真で一箇所だけを拡大すれば、変化は分かりやすくなります。しかし、その部位の数値や形が改善していても、顔全体で見たときに不自然さが増していれば、治療が本当に成功したとは言い切れません。

正面の静止画だけでなく、斜めや横から見た形、笑ったときの動き、眉や口元の表情、時間が経過したあとの変化まで考える必要があります。美容医療の目的は、特定の線や膨らみを消すことそのものではなく、その方の顔立ちの中で、より自然な調和を取り戻すことだからです。

海外でも近年、相談された一部位だけではなく、顔を360度から評価し、組織同士の関係や表情まで含めて治療計画を立てる重要性が強調されています。一部位だけを診て治療すると、別の場所とのつながりを見落とし、かえって形の不調和を生む可能性があるためです。

患者さんだけでなく、医師にも「見慣れ」は起こる

美容医療では、変化した自分の顔に目が慣れ、次のわずかな欠点が気になり始める現象が知られています。最初の治療前の顔を基準にするのではなく、直近の治療後の顔が新しい基準になり、少しずつ治療を重ねてしまう状態です。

しかし、この「見慣れ」は患者さんだけに起こるとは限りません。

医師も、同じ施術や似た仕上がりを日々見続けることで、自然だと感じる基準が少しずつ変化する可能性があります。特定の輪郭、ボリューム、引き上がり方を繰り返し目にし、さらにSNS上で強い変化ほど注目される環境に接していると、以前なら十分と判断した状態にも、もう一段階の治療を加えたくなるかもしれません。

こうした術者側の感覚の変化は、海外では「Professional Aesthetic Drift(術者側の審美的な基準のずれ)」という考え方でも論じられています。まだ検証が必要な概念ではありますが、私たち医師が自分自身の美的判断を絶対視せず、治療前の写真や顔全体の評価に立ち返る必要性を示す、重要な警告だと思います。

専門性が高いことと、適応が広いことは違う

専門性の高い医師ほど、その施術で何ができるかをよく知っています。同時に、本来はその施術では解決できないことも理解していなければなりません。

一つの術式を行う技術があることと、その術式が目の前の患者さんに適していることは別です。機器を所有していることと、その機器が今必要であることも同じではありません。

成熟した専門性とは、得意な治療を行う能力だけではなく、その限界を認識し、別の方法を提案すること、必要なら他の専門家と連携すること、そして治療をしない方がよい場面で「何もしない」と判断できることまで含むものだと考えています。

現代のオーバーサージェリーを避けるために

カウンセリングでは、施術名だけを確認するのではなく、次のような点を医師と共有することが大切です。

  1. この悩みは、どの組織やどの部位の変化から生じているのか
  2. 提案された治療で変わる部分と、変わらない部分は何か
  3. 隣接する部位、横顔、表情、将来の加齢にどのような影響があるか
  4. 治療をしない選択肢や、別の方法はあるか
  5. 過去の治療を含め、顔全体としてどのような長期計画を立てるか

患者さんが希望する施術をそのまま行うことが、必ずしも患者さんの利益になるとは限りません。医師には、希望を丁寧に聞いたうえで、原因と治療のずれを説明し、ときには立ち止まる役割があります。

まとめ

現代のオーバーサージェリーとは、単に施術の数が多いことではありません。限られた視点と限られた道具で、顔全体の問題を解決しようとすることです。

一箇所が改善しても、その代わりに顔全体の調和や、その方らしい表情が失われてしまえば、治療の方向を見直す必要があります。

施術を選ぶ前に、なぜその変化が起きているのかを考える。部位ではなく顔全体を診る。自分の得意な治療だけで解決しようとしない。そして、必要以上の変化を求めない。

美容医療が細分化し、選択肢が増えた今だからこそ、医師にも患者さんにも、施術そのものから一歩離れて顔全体を見直す視点が必要です。

本記事は美容外科・美容医療に関する一般的な考え方をお伝えするものです。特定の術式、機器、注入治療、医師を否定するものではありません。治療の適応や組み合わせは、骨格、軟部組織、皮膚の状態、過去の治療歴、ご希望によって異なります。実際の治療については、診察時に医師へご相談ください。