フェイスリフトで大切なのは、皮膚を強く引くことではなく、たるみの中心となる深さを適切に扱うことです。その説明で欠かせない言葉が、SMAS(スマス)です。ただしSMASは、身体のどこにでも同じ厚さで存在する一枚の膜ではありません。
SMASとは何か
SMASは、Superficial Musculoaponeurotic Systemの略称です。一般には皮下脂肪より深い位置にある筋膜系として説明されます。
実際には、線維性組織、脂肪、支持靱帯、表情筋との連続性を含んだ複合的な構造です。部位によって厚さや構成が異なるため、「ここからここまでが一枚のSMAS」と単純に線を引けるものではありません。
なぜ皮膚だけでは不十分なのか
皮膚は伸びやすく、強い張力を長期間支え続けることには向いていません。皮膚だけに負担をかけると、傷への張力が強くなったり、耳周囲の形が変化したり、早い段階で後戻りしたりする可能性があります。
そのため現代のフェイスリフトでは、皮膚だけでなくSMASを含む深部組織を評価し、必要な範囲で移動・固定する考え方が広く用いられています。
これは「SMASを触れば必ず良い結果になる」という意味ではありません。どの組織をSMASとして扱い、どの範囲を動かし、どの方向へ固定するかが重要です。
顔の「五層解剖」とSMAS
顔面の軟部組織は、表層から皮膚、皮下組織、SMASおよびそれに連続する構造物、スペース、骨膜・深筋膜という5層で捉えることができます。
SMASはこのうち第3層に位置し、顔面では表情筋や支持組織と、首では広頸筋と連続しています。均一な一枚の膜ではありませんが、皮膚より深い位置で顔や首の組織を支え、手術で移動・固定する際の重要な層となります。
「SMASは存在しない」という論文の意味
2024年の形成外科領域の論文では、SMASを独立した均一な解剖学的構造として捉えることに疑問が示されました。
この内容は「フェイスリフトでSMASを扱う必要がない」という意味ではありません。解剖学的に一枚の膜として存在するというよりも、手術操作の中で線維、脂肪、筋、靱帯などを含む組織のまとまりとして扱われている、という整理です。
つまり、名称の議論と、手術で深部組織を適切に扱う必要性は分けて考える必要があります。
術式名より確認したいこと
カウンセリングでは、「SMAS法」や「Deep Plane」という名称だけでなく、次の点を確認することが大切です。
- どの深さの組織を移動させるのか、SMASをどのように扱うのか
- たるみ改善を妨げる固定部位をどこまで解放するのか
- 皮膚と深部組織に、どのように力を分配するのか
同じ術式名でも、実際の剥離範囲や固定方法は術者によって異なります。名称だけでは、手術内容や得られる変化を判断できません。
まとめ
SMASは、フェイスリフトを理解するうえで重要な概念です。一方で、単純な一枚の膜として捉えると、実際の解剖や手術操作との間にずれが生じます。
重要なのは、皮膚だけに負担をかけず、患者さんごとの解剖とたるみ方に合わせて、必要な深さの組織を適切に移動・固定することです。