フェイスリフトは単に皮膚を引っ張る手術から始まり、顔の深い組織を解剖学的に移動固定する手術へと発展してきました。術式名は数多くありますが、その違いは、どの深さをどこまで剥離し、どのように扱うかという視点で整理すると理解しやすくなります。
フェイスリフトの始まり
記録に残る初期のフェイスリフトは20世紀初頭に行われました。1901年、Eugen von Holländerは余った皮膚を切除し、ほとんど剥離せずに縫い寄せる手術を行ったとされています。その後、耳の周囲などで皮膚を切除し、皮膚の下を剥離して引き上げる方法へと発展しました。
この時代の主役は、あくまで皮膚でした。手術直後には引き締まって見えても、伸びやすい皮膚に力を預けるため、後戻りしやすいこと、傷に強い緊張がかかること、フェイスラインや頬の深いたるみを十分に動かしにくいことが課題でした。
「どの深さを扱うか」を理解する5層構造
顔面の軟部組織は、表層から皮膚、皮下組織、SMASおよびそれに連続する構造物、スペース、骨膜・深筋膜という5層で捉えることができます。どの層で剥離し、支持靭帯をどこまで解放し、どの組織を移動させるかという違いが、現代のフェイスリフトを理解する基盤になります。
深部組織へ ― SkoogとSMAS
1960年代末、スウェーデンの形成外科医Tord Skoogは、皮膚だけでなく、顔の表在筋膜と首の広頸筋を連続した組織として引き上げる考え方を報告しました。この方法は1974年の成書でも体系化され、皮膚より深い層を扱う現代的なフェイスリフトの礎となりました。
続く1976年、MitzとPeyronieは耳下腺・頬部の解剖学的研究から、SMAS(Superficial Musculoaponeurotic System)を記載しました。SMASという共通言語が生まれたことで、皮膚と深部組織を分けて引き上げる方法、SMASを折り込む方法、切除して縫い縮める方法など、多くの術式が発展していきます。
余った皮膚を切除し、皮膚を主体に引き上げる。
皮膚と表在筋膜・広頸筋を連続して扱い、深部組織へ視点を移す。
MitzとPeyronieがSMASを解剖学的に示し、深部組織を扱う術式が多様化する。
現在のフェイスリフトを3つに分類する
現在のフェイスリフトには多くの名称があります。ここでは、皮膚とSMASの関係、そしてどこの深さで剥離するかという視点から、代表的な術式を3群に分けます。
これはすべての術式を厳密に区切る唯一の分類ではありません。同じ名称でも術者によって剥離範囲や固定方法が異なり、複数の考え方を組み合わせる術式もあります。手術の全体像を理解するための地図としてご覧ください。
皮下とSMASを分けて動かす
例)High SMAS/Extended SMAS
皮膚の下を剥離したうえで、SMASも別の組織として剥離します。皮膚とSMASをそれぞれ異なる方向・強さで移動できるため、皮膚への緊張を調整しながら深部組織を再配置できます。
皮下を剥離し、SMASの表面から操作する
例)SMAS plication/SMASectomy/MACS lift
主に皮膚の下を剥離し、SMASの下を広く剥離せずに、SMASを縫い縮める、折り込む、一部を切除して縫合する、糸で吊り上げるなどの操作を加えます。一般に広いSMAS下剥離を行う術式よりも操作範囲を抑えやすいグループです。
SMASの下を剥離し、複合組織として動かす
例)Deep Plane/Composite Facelift
SMASの深層へ入り、必要な支持組織を解放します。皮膚、皮下脂肪、SMASなどを連続した厚い組織として移動させることが特徴です。
3分類から分かること
この3分類の違いは、単なる手術名の違いではありません。皮膚と深部組織を別々に動かすのか、SMASの表面から操作するのか、SMASの下へ入って一体と動かすかによって、剥離範囲、組織の動かし方、腫れや回復の傾向、注意すべき解剖、仕上がりが変わります。
ただし、深い層を扱うほど必ず優れている、あるいは操作範囲が小さいほど常に安全という単純な関係ではありません。たるみの部位と程度、皮膚・脂肪・SMASの状態、過去の手術、希望する変化を踏まえて、必要な術式を選ぶことが重要です。
術式を理解するための3つの質問
- 主に剥がしてくる深さは?皮下・SMAS下の両方なのか、皮下のみなのか、SMAS下のみなのか?
- SMASをどのように処理するか?
- どの支持組織をどこまで解放させて移動させるのか?
まとめ
フェイスリフトの歴史は、皮膚だけを引き上げる手術から、SMASを含む深部組織を解剖学的に扱う手術への発展として捉えることができます。
現在の多様な術式も、「皮膚と SMAS を分ける」「SMAS の操作の仕方」「どこまで支持組織を解放させるのか」という3つの視点で整理すると、違いが見えやすくなります。名称だけではなく、実際にどの層をどの範囲まで扱う手術なのかを確認することが大切です。